真夜中のアブ(後編)

どう考えてもおかしいこの状況を、受け入れているのは
やはり目の前に起きていることが現実だからなのか・・・・

俺が最近不運続きなのをこいつは知っている
けれど、俺が不運続きなのはお前が現れてから
こいつが言うには、自分のおかげで、俺はこの程度の災害で済んでいるということ・・・

まあ、そういわれれば納得できることもある・・・
けど、こいつのせいで睡眠不足になって、注意力が散漫になっているということもある
どちらにせよ、いいことがないのは確かだが
『さあ、願い事を言え』


「・・・・・ちょっと待て、お前は俺の願いを叶えて、それからどうするつもりだ?」


よく考えろ、なんでこいつが俺の願いを叶えなきゃならないんだ
それに、無償で願いを叶えてくれるなんてむしがよすぎる
いったい何を企んでる、何か見返りを望んでいるんだろう?


『どうもしない。俺は神様だからな、おまえが胸に不満を抱えているのを察知して下界におりてきた、それだけだ』


「うさんくさ・・・・」


『どうしても俺を信じられないというなら、俺の力を見せてやろう』


「お前の力?どうやって・・・」


『明日になれば分かる』


それだけ言うとアブは姿を消した
目が覚めるとすでに朝になっていた

明日になれば分かるって・・・・
いったいあいつ何をしたんだ・・・
今のところ、俺に変わった様子はないし


ベッドから降りて、しわくちゃになったスーツを着替えようと立ち上がった
それと同時に、俺の携帯が鳴る

こんな時間に携帯が鳴るなんてめずらしい
誰だ?

画面を見るとそこには「中沢」の文字
なんだ?こんな早くに


「もしもし?どしうした」


「あ!おっす!おい、聞いて驚くなよ!実はさ・・・」


「朝早くに電話しておいてじらすな!なんだ」


なかなか話し始めない中沢にかるくいらだつ
昨日の出来事でほとんど睡眠をとっていない


「実はさ、お前のとこの上司が緊急入院したらしいぜ!」


「はあ?」


俺の驚きをよそに、中沢は話を続ける
なんでも、今朝早くにいきなり心臓が苦しくなり、そのまま病院に運ばれて入院
一命は取り留めたものの、復帰は難しいらしい

昨日まであんなに元気だったのに
あの親父、秒気持ちだったのか?
いや、そんな話は聞いたことがない
健康診断の結果が出たときも、部下に見せびらかすほどに健康だったはずだ
だったらなんで・・・?


中沢の電話を切ってから急いで着替えて会社に向かった
オフィスに入ると、上司の話題で盛り上がるOLたちの姿があった
俺は、さりげなくその輪に入り、話を聞いた


「以外だよね〜、私たち部下に健康自慢してたくせに、倒れて入院なんて」

「本当だよね〜心臓が苦しくなったていうことは、心不全とかそういうのでしょ?やだ〜健康診断で発見できなかったのかな?」


心臓なんて悪くなかったはずだよな・・・
俺と違って図太いし、ストレスを感じるようなタマじゃないはずだ・・・


俺はしばらく考えて、あるひとつの結論にたどり着いた・・・
まさか・・・アブの仕業?


昨日ここで聞こえた奴の声・・・・
あの親父が消えればいいと思ったときに聞こえた

『望みを叶えてやろうか』

あの言葉・・・と、昨日の

『明日になれば分かる』

この二つを合わせて考えると・・・・

アブの仕業か?

アブが何かの力を使ってあの親父の心臓に何かをしたのか?

俺が、消えろと思ったから?


『そのとおりだ。勘がするどいな・・・』


「おまえ・・・・」


『どうだ?俺の力は?お前が望めば、あのやかましい女も消してやるぞ?』

やかましい女・・・・鈴田のことか?


「俺は、こんなことを望んでいたわけじゃない・・・」

『そうか?俺には望んでいるように見えたが。』


確かに消えろと思った
けれどそれは、苦しんで欲しいとか、そういうことじゃない
ただ、俺がやりやすいようにしたかっただけだ・・・


『人は、知らないうちに心に闇を抱える。俺はそれを具現化してやったに過ぎない。どうだ?俺の力が欲しくないか?俺の力があれば、お前の暮らしやすい環境にすることも難しくはない』


俺の暮らしやすい環境?
あんなに嫌いだった上司が倒れて、それが俺のせいだと知って
こんなに罪悪感を感じているのに
これが俺の暮らしやすい環境?

目の前に現れるわずらわしい奴らを
俺の一存で消すことが?


『どうした?何を考える必要がある?罪悪感に苛まれているのか?だったらそんな事気にする必要はない。あと2、3人に同じ事をすれば慣れるものだ』


「やめろ・・・」


これ以上犠牲者を出すわけに行かない・・・
俺のせいで、周りの人間が苦しむなんて
それだけは・・・・


『いまさらいい人ぶるのか?人間とは都合のいい生き物だな。あの上司にいつも押さえつけられていたんだろ?あのうるさい女にいつも付きまとわれていたんだろ?
そして、それを疎ましく思っていた、消えればいいと思っていただろう?』


「うるさい!!」


『そうやって、激しく否定するのは自分の心を隠そうとする証拠だ。正直になれ、お前の心は闇で埋まっている』


アブのいうことに心が痛む
そうだ、俺の心には闇がある
いろんな不満を抱えている
けど、誰だってそうだろう!
なんで俺のところに来るんだ・・・・


「・・・・・・!?」


改めてアブの姿を見ると、昨日よりも若干からだが大きくなっているように思える
昨日というよりも、さっきからどんどん大きくなっている・・・


『気がついたか?俺はお前の闇を食っている』


「俺の闇・・・・?」


『お前は昨日、自分の願いを叶えてどうするつもりだと聞いたな?
答えは・・・俺の力を強くすることだ。
お前の闇が大きくなるほど、俺の体は成長する・・・・』


こいつはいったいなんなんだ?
俺の闇を食って生きている?
力を強くしてどうするつもりなんだ?


『おまえは、どうあがいても闇から逃れられない。だから教えてやろう
俺は神様といっても死神のほうだ。人間の絶望を餌に生きている』


死神・・・?
なんで死神が俺のところにくるんだ?
俺の寿命はもうすぐ終わるのか?


『死神と一口に言ってもいろいろいるんだ。まず、世間に多く知られているもうすぐ死ぬ人間のそばに現れるやつ。それともうひとつ、俺のように人間の闇を吸い取って生きているやつ』


『ふらふらしていたら、お前を見つけたんだ。心に大きな闇を抱えていた、いい餌だと思ったんだよ』


こいつ・・・・それでずっと俺の周りをうろちょろしてやがったのか・・・
どおりで最近疲れやすいわけだ・・・
俺の寿命を少しずつ吸い取っていたというわけか・・・・


『お前が闇を捨てない限り、俺はお前にとり憑く。安心しろ、死んだときはちゃんと天国に連れて行ってやる』


「だれが・・・お前なんかに・・・」


闇を・・・捨てる・・・
それは、おれ自身の不満を解消するということだよな・・・

俺の不満・・・口うるさい上司、つきまとうわずらわしい女・・・・
面白みのない仕事・・・・
俺を取り囲む環境すべて・・・・

変わらないならと、あきらめて目をそらしていただけ・・・

そうか・・・俺は誰かのせいにして
いつも現実から目をそらしていたのか・・・

誰のせいでもない・・・
変わろうとしなった自分自身に俺は不満をもっていたんだ・・・・


「ふふ、死神、俺は闇を捨てるぜ?」


『ふん!戯けたことを言う。お前の闇は大きい、そう簡単に捨てれるものではないだろ』


「分かったんだ、俺の不満、闇といわれるのは、何も変わろうとしない自分だってな。だから、俺は変わる!環境に不満があるなら、変えていけばいい!他人を変えることばかり考えるより自分を変えることのほうが楽だからな!」


『・・・・く・・・・こいつ、本当に闇を・・・・やばい・・・これ以上この正解にいたら俺が・・・消えてしまう・・・』



「俺にもう闇はねぇ!さっさと俺の前から消えろ!!」


俺はありったけの大声をアブにぶつけた
さっきまで暗く見えていた景色はだんだん明るくなり
アブの姿もだんだん薄くなっていく・・・


『・・・これまで・・・か・・・』


その言葉を最後に、アブは俺の目の前から姿を消した。

それから1週間後、復帰が難しいといわれていた上司が回復して退院した

あれだけの大病を患ったにも関わらず、仕事に復帰した上司は相変わらず細かいことを指摘する、現場に顔をつっこむ
それでも前より不快に感じないのは、おれ自身にある決意があるからだ



「なんだ?これは?」


「辞表です。私、今月いっぱいでここを退職いたします」


「なっ何を突然言い出すんだ!正気なのか」


「もちろんです」


俺が決意したのは長く勤めたこの会社を辞めるということ
他人を変えるのは難しい
この上司を変えるのはもっと難しい
この人がいる限り、この環境は変わらない
だったら、俺はここを去るしかない


「その年で会社を辞めて他に行く先があると思ってるのか!よく考えろ!お前はもう35歳なんだぞ!」


「私は年齢によってやりたいことを制限されたくありません!これからは、自分に正直に生きようと思います。受理してください」



上司を説得するのは至難の業だった
けれど時間をかけてなんとか辞表を受理してもらった
これで、俺は自由になれる


生活は大変になるかもしれない
けれど、俺は自由を手に入れた
誰のせいでもなく自分で選んだ道
後悔はしない


あのアブのおかげで、俺は自分の闇と正面から向き合うことができた
きっと、やつが現れなかったら、俺は一生ここで不満を抱えたまま生きてきただろう

その環境を一生人のせいにして生きていくだろう
けど、あのアブが気づかせてくれた
自分が変わろうと思わなければ、一生闇を背負って生きていかなければならないことを


人にはそれぞれ抱えている闇がある
多かれ少なかれ絶対に


だから、またアブは現れるだろう・・・
また、闇を抱えた誰かのところへ・・・・




真夜中のアブどうでしたか?



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やっぱり…

サクラサル先生の作品は面白い!
アブがまさか死神とは思いませんでした!
にしても、まだまだ続きが読みたいと思っていたんですが、短編小説なんですよね〜…
私も伝奇物の小説に着手してたんですが全然まったく進んでおりません(笑)!
設定と登場人物だけは出来上がってるんですけどね(笑)
この作品をサクラサル先生に託したいと一人勝手に思っております(笑)!
それでは季節の変わり目なので旦那様ともども風邪などひかぬように小説の次回作を楽しみに待っております!


大地オサム(永遠の15歳)



コメント遅れました〜ごめんなさい(><)

アブは死神でした。しかも闇を食べて生きているんです!その人の闇を食べつくし、殺してしまって地獄に連れて行ってしまう!そんな設定でした〜

大地さんの小説・・・読みたいですね〜
伝奇物ですか?私にはアブで手一杯です!なので、大地さん頑張れ〜〜


大地さんも風邪をぶり返さないように!気をつけてくださいね。

アブが消えて、新しい男が誕生したんですねー。

取り付く男を間違えて破滅するアブは、その男を正しい道へ覚醒させてしまう流れが面白い。

しかも、決断はや!これが想定外だったんでしょうね、アブの末路はしらないけど(笑

N&Eさんへ

このアブは消えてしまいましたが、他にも死神はいるので、心に闇を抱えた人のところにまた現れるはずです。
決断の早さが、彼の命をすくったんです!

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